
ベルリンを拠点に活動する写真家・橋本貴雄の写真集『風をこぐ』出版記念巡回展示の最終章のひとつとなる。橋本は2005年、交通事故に遭い後ろ脚が動かなくなってしまった野良犬・フウを保護した。本展では、出会いの地・福岡をはじめ大阪、東京、ベルリンで橋本とフウがともに過ごした12年間の記録、19点で構成される。フウとの日々を静かに受け止める橋本の優しい眼差しと柔らかな風景が目の前に浮上する。フウのいる風景が愛おしいと感じるだろう。 フウは17年前、福岡の路上で轢かれていた。事故で後ろ脚は動かなくなっていて、手術を受けて、リハビリをかさねていくなかで、後ろ脚は少しづつ動き始めた。普通の犬のように歩くことは最後までできなかった。それでも、自力で立って元気に散歩ができるまでに回復した。晩年は自力で立つことはできなくなったけれど、車椅子で変わらず元気に散歩をつづけた。 写真を始めたのは、福岡でリハビリをかさねていくなかで、フウが少しずつ歩き始めた頃だった。フウを写している時、その写真で作品作りをするつもりはなかった。ただ、フウが歩いていく方へ歩いていき、流されるように、そこに現れてくるものを撮った。福岡、大阪、東京、ベルリンで、12年間、私はフウのそばにいて、ただ見つめていたように写真が残った。 後ろ半身を不安定に揺らしながら、前脚でバタバタと宙を漕ぐようにして立ち、全身を波立たせて走る。力の弱い後ろ半身が右に傾き、時々尻もちをついてはまたすぐに立ち上がる。いつも初めてのように目の前の景色にふれて、どんどん遠くへ駆けていった。 フウが亡くなって5年が過ぎた。私たちは、毎日の生活のなかへ絶えず投げだされながら、時間を置き去りにして、だんだん遠くへ離れていって、もといた場所も忘れてしまうのかもしれない。疲れて、ふとふり返って、見えなくなったことのさびしさに気づいて、置いてきたものをまた拾い集める。フウとの時間と残った写真がなかったら、いくつかの失くしていた感覚がいまの自分にはあったと思う。12年間、一緒にいれて幸せだった。
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