
先週、橋本聡さんと野村和弘さんの個展を続けて見ました。
2人の作品をここ数年見てきて、以前からどこか近い関心を持っているように感じていました。今回、2つの展覧会を見て、そのことをあらためて考えてみましたので、少し書き留めてみます。
野村さんの作品を初めて見たのは、2024年にHARMAS GALLERYで開催された個展「リング・チェーン」でした。野村さんが在廊されていて、HARMAS GALLERYの八木さんとじっくりお話を伺ったことを覚えています。
リング・チェーンHARMAS GALLERY / 馬喰町・清澄白河 ・ 24年 3月16日 – 4月20日終了野村さんは以前よりレディメイドを用いた作品を制作し、鑑賞者の行為を取り入れた作品も発表してきました。2024年の東京都現代美術館のコレクション展でも展示されていた「笑う祭壇」では、来場者が古いボタンを台に向かって投げるという行為が作品の一部になっていました。(私も何度もやりましたが乗りませんでした)
今年4月のHARMAS GALLERYでの個展「モナド」では、既製品のプラレールが決まった時間に5分間だけ走り、今回の「200匹の、黒い犬」でも、犬のおもちゃが土日にそれぞれ17時から約5分間、鳴き声を上げながら動き回ります。
野村和弘 | モナドHARMAS GALLERY / 馬喰町・清澄白河 ・ 26年 4月4日 – 5月16日終了
野村和弘「200匹の、黒い犬」Gallery21yo-j / 世田谷 ・ 26年 9月17日 – 10月11日終了野村さんの作品には、ズレへの関心も見られます。今回の展示には、タイトルが「200匹」なのに、実際には198匹しか犬がいないというズレがあります。犬のおもちゃが18個単位でしか注文できなかったため、200匹に近づけるなら198匹か216匹。野村さんは198匹を選び、その満たされなさについて「そういう満たされなさも、嫌いじゃない。その、隙間感も。」と書いています。
一方、橋本さんの作品を初めて見たのは、2024年夏に青山目黒で開催された個展「なくなる」でした。指示や鑑賞者の身体的な動き、体験を通じて成立する、複雑な展示だったと記憶しています。
なくなる青山目黒 / 恵比寿・中目黒 ・ 24年 7月13日 – 8月11日終了今回の個展「夜で記す」/「名は墓」でも、文章や指示、目に見えるものと見えないものの境目が、展示の重要な要素になっています。
橋本聡「夜で記す」/「名は墓」青山目黒 / 恵比寿・中目黒 ・ 26年 9月19日 – 10月18日終了今回、橋本さんが書いた「1≠1」という文章。同じ「1」に見えても、左辺と右辺の「1」は本当に同じなのか。そもそも、異なるものを「1」という同じカテゴリーに押し込めることで、見えなくなってしまう差異があるのではないか。橋本さんは、等号を「差異を沈黙させる最小の社会装置」と表現しています。
こうした問題意識は、野村さんの作品にも通じるように思います。
「200匹の、黒い犬」の犬は、同じ製品として量産されたおもちゃです。それでも動き方には1匹ずつ違いがあります。「200匹」という題で198匹を並べたことも、題と中身を等号で結ばない選び方です。
ドイツ滞在中に制作された《leonard》は、同じ版元から出たレオナルド・ダ・ヴィンチの画集のフランス語版とドイツ語版を縦半分に切り、つなぎ直した作品です。2冊を合わせることで、図版の位置の小さなずれや、印刷の質の違いが、1冊の中に現れます。画集も犬も、同じものとして大量に作られたもののあいだにある違いを見せているように思います。
なお、この《leonard》と《Ein Heimische Voegel 2》を組み合わせて、《photograph》という新しい作品をこすととして提供いただきました。
コロタイプ・プロジェクト — FunwowFunwow Collotype Project。作家とギャラリーとの関係を、手元から考えるための企画。年間会員に、コロタイプ作品4点をまとめてお届けします。Funwowちなみに、レオナルド・ダ・ヴィンチは橋本さんの展覧会にも登場します。2013年に青山目黒で開いた個展の題は「私はレオナルド・ダ・ヴィンチでした。魂を売ります。天国を売ります。」でした。
ただ、2人がズレに向き合う態度は違います。
野村さんの作品では、ズレは必ずしも解消すべき問題ではありません。むしろ、ズレをそのまま受け入れたり、楽しんだりする姿勢が感じられます。
対して橋本さんは、ズレを社会の仕組みや制度の問題として突き詰めていくように感じます。この展示でも、指示や言葉を通じて、鑑賞者が当然のものとして受け入れているルールや立場が揺さぶられます。
2人とも、既製品や言葉、指示などを用いながら、ものごとを同じものとして扱うことの不確かさに目を向けている。関心の根は近いのに、そこから向かう先はずいぶん違う点も興味深く拝見しました。
野村さんの展覧会は終わってしまいましたが、橋本さんの展覧会は10月18日まで開催中ですのでぜひ伺ってみてください。
ほかに、本文で紹介した展覧会5件のページにも載っています。