
Photo credit: Kohei Omachi (W) ↗
parcel(東京)は、2026年9月12日(土)〜10月18日(日)の期間、アーティスト・山口幸士の個展「Field Notes」を開催いたします。本展では、街を歩きながらその場で記録するクイックペインティングと、写真など別の媒介を経てアトリエで練り直された大型絵画という、方法の異なる二つの「ノート」を通じて、木陰や日常の風景といった身の回りのモチーフに向き合います。 山口の制作を貫く参照点のひとつに、ジョルジョ・モランディがあります。静物画で広く知られるモランディですが、晩年にかけてはボローニャ郊外グリッツァーナの丘や木々を繰り返し描いた風景画にも多くの時間を費やしました。同じ場所、同じモチーフに幾度となく立ち返りながら、対象そのものよりも「見る」という行為を反復し続けたその制作姿勢は、山口の実践と深く重なります。 屋外にイーゼルを立てて描くという行為自体は、19世紀の印象派が確立した外光主義(プレネール)の系譜に連なります。しかし山口にとって、30分という制限時間の中で街の一角を描き切る「クイックペインティング」は、光を追うための手法である以上に、都市という公共空間の中で対象と向き合うための、いわば現場での**ノート(field notes)**です。この30分という時間の感覚は、山口が長く親しんできたスケートボードの経験に根差しています。夜間に街を滑走する中では、騒音を理由に近隣住民とのトラブルに見舞われたり、警備員に追われたり、警察官が駆けつけたりすることも少なくなく、早い場合には30分ほどでそうした状況が生じることもありました。人目を引く前になるべく早く行為を完了させ、その場を離れるという身体化された感覚が、戸外での制作行為にそのまま持ち込まれています。目の前の光景に直接キャンバスを向け、その場での判断だけを頼りに手早く書き留めていく――このシリーズにおいて、ノートを取るという行為と、絵を描くという行為の間に隔たりはありません。 本展のクイックペインティングでは、木陰が主要なモチーフとして選ばれています。これは近年の世界的な酷暑という状況を背景としたものでありますが、木々がつくる陰は、都市の中で山口が実際に足を止め、制作の拠点とする場所そのものでもあります。 一方、会場に並ぶ大型のキャンバス群は、写真など別の媒介を経て制作されています。木陰の揺らぎや見慣れた街角を一度カメラに収めるなどして、後からアトリエで描き起こします。現場での即興が身体を通した速記であるとすれば、他の媒介を通したこちらの作業は、一度立ち止まり、選び直し、記憶と照らし合わせながら書き記す、もう一つの「ノート」のあり方だと言えます。速度も方法も異なる二つの記録が、ともに同じ「観察する」という行為の延長線上にあることを、本展のタイトル「Field Notes」は示しています。 ノートの取り方は異なりながらも、木陰や日常の風景という尽きることのないモチーフに、山口は幾度も立ち返り続けています。 山口幸士(1982年、神奈川県川崎市)は、10代の頃から親しんだスケートボードで街を滑っていた視点を軸に、日常の風景やオブジェクトを通して、言葉にはできない自身の感情や時間の流れ、背景にある物語や歴史を透けさせるような絵画作品を制作する。ペインティング、ドローイング、コラージュなど様々な手法を用いて、身近なものの新たな表情を写し出した作品群は見る人に新鮮な驚きをもたらす。 2015年より3年間のニューヨークでの活動を経て、現在は東京、神奈川を拠点にしている。2022年には出身地である川崎市の工場内で5日間のみの個展「小さな光」を開催し、大きな反響を呼んだ。2023年にはGinza Sony Parkのウォールアート企画に選出されるなど、活躍の場をさらに広げている。
館の公式サイトの紹介文を、そのまま載せています。 出典で読む ↗
開催中・10月18日まで
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