
大寺 史紗 略歴:1993 年生まれ。2016 年武蔵野美術大学造形学部日本画学科卒業、2018 年同大学院造形研究科修士課程美術専攻日本画コース修了。 大寺は墨を用い、線描や隈取りといった日本画の伝統的な技法で人体を描いています。丹念に幾度となく薄墨を重ねることにより、モノクロームの色相はいっそう豊かに柔らかく描き出され、肌の質感や湿度を感じさせます。 今回の個展では、作者自身が経験したことや過去の記憶を元に作品が描かれております。装飾的な要素が取り除かれ、煙のように揺らめき消え入りそうに見える体や、接写した如く拡大された体の部位によって画面は構成され、それらの作品は、以前の作品に比べて遥かに高い抽象性を帯びています。 断片的に描かれる、記憶の生み落とした体の数々が、息を潜めて静かに並び、詩を紡ぐように小さな声で語りかけてきます。 また会場では音楽家、君島大空により個展のために書き下ろされた楽曲が流れています。 この楽曲は大寺が制作をする際の物音や生活音がベースとなっております。命を刻むように音は鳴り、白ばむ記憶や移りゆく景色を感じさせます。どうぞ絵画と共にお楽しみください。 *君島 大空 ohzora kimishima 1995年 青梅生まれ。ソングライター/ギタリスト。 ギタリスト/サウンドプロデュースとして、吉澤嘉代子、中村佳穂、細井徳太郎、坂口喜咲、Ryutist、adieu(上白石萌歌)、高井息吹、UA、荒谷翔太(yonawo)など様々な音楽家の制作、録音、ライブに参加。 2019年『午後の反射光ep』を発表後から本格的にソロ活動を開始。 残光の照らす躰たち 金子 薫 もはや花弁にも青葉にも包まれてはおらず、人の裸体が人の裸体のまま、淡い光のなかにぼうっと浮かび上がっている。 「裸花」(2019)、「羽化」(2020)、「双眸」(2021)など、過去の個展において披露された作品群と比較すれば一目瞭然だが、「余熱」(2022)に並ぶ躰の数々は、花が散り葉が落ち、宿していた毒も抜かれた裸身たちであり、どれも皆、夜明けとも黄昏とも見える幽かな光を浴びて独りぽつんと佇んでいる。 そこにあるのは、毒を含みながらも見る眼を誘うような、花咲く絢爛たる裸身ではない。外部から注がれる眼差しへの挑発と拒絶を感じさせる、緊張を孕み、時に攻撃的とさえ映る躰ではなく、本展覧会において大寺史紗は、己に見入り皮膚の内側に微熱を感じているかの如き、慎ましやかで物静かな躰を並べてみせる。 これらの躰たちは残光のなかで何を考えているのか。もしかすると言葉にならぬ言葉を何事か呟いているのだろうか。ひょろひょろと細長く伸びた手足の指にのみ、植物であった時代の名残を留めている、これらの躰たちは、光の絹を一枚纏い、どこに坐り込み、どこへ行こうとしているのか。 装飾を剥がれ、影の落ちる部分を失い、つるつると丸みを帯びた、光に浮かび光に溶けてしまいそうな躰たち。静寂のなかで風船や鞠の如く膨らみ、やがて雄弁になっていく躰たちを、私たちは私たちの躰を見るように、あるいは私たちの他人の躰を見るように、物言わずじっと見詰めることになる。 *金子 薫 1990年、神奈川県生まれ。慶應義塾大学文学部仏文学専攻卒業、同大学院文学研究科仏文学専攻修士課程修了。2014年、『アルタッドに捧ぐ』で第51回文藝賞を受賞しデビュー。 2018年、第11回(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞受賞。同年、『双子は驢馬に跨がって』で第40回野間文芸新人賞受賞。2019年、『壺中に天あり獣あり』で第32回三島由紀夫賞候補。2022年、『道化むさぼる揚羽の夢の』で第35回三島由紀夫賞候補。他の著書に『鳥打ちも夜更けには』がある。
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