
この惑星には、数え切れぬ種の生物が存在している。ひとつの起源から枝分かれしてきた生命が、これほどまでに多様化してきた背景には、途方もない時間をかけて積み重ねられてきた「ズレ」がある。 自然界における反復に、まったく同じものはない。繰り返しのなかで絶えず生じる微細なズレ。それらが他なるものと結ばれ、またほどかれながら、境界は少しずつ揺らぎ、そこから新たな枝葉が芽吹いていく。 人の手によるものづくりにも、同じような反復がある。削る、叩く、編む、縫う、塗る、積む。同じ動作を繰り返しているように見えても、その一回一回は決して同じではない。身体の動きや力の加減、素材の個体差、その日の気温や湿度。さまざまなものが作用し合い、そこには意図したものも、意図しないものも含めて、小さなズレが生まれ続ける。 木目に沿って刃の角度を変える。土の柔らかさに応じて指先の力を緩める。布の伸びを感じながら糸を引く。手はただ同じ動きを繰り返しているのではなく、触れるものから返ってくる感触を受け取り、そのたびにわずかに動きを変えている。そこに生じる差異は、手の不確かさであると同時に、素材や環境への応答の痕跡でもある。 ある行為を繰り返すたびに、身体と素材、ものと環境の関係はわずかに組み替えられていく。ひとつの変化が次の変化を呼び、それまでなかった関係が生まれる。そうした無数の反復と差異の集積のなかから、やがてひとつの形がつづられていく。 そう考えると、ひとつのものの輪郭もまた、それほど確かなものではなくなってくる。それはひとりの意志だけによって生まれたものではなく、素材が過ごしてきた時間や、それに触れてきた身体、道具、技術、環境といった、さまざまなものが一時的に結ばれた姿なのかもしれない。 そのあいだに生まれる小さな揺らぎに目を凝らすことで、ものを形づくっている無数の関係に触れることができるのではないだろうか。(永井祐介)
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