
西澤利高は1965年岐阜県生まれ。 1992 年に東京藝術大学大学院美術研究科 彫刻を修了。 以来、数多くのモニュメントの制作・発表などを行いながら精力的に活動しています。また近年は芸術祭にて大型のインスタレーション作品を発表しています。海外での活動も多く、Delft(オラ ンダ)での大型彫刻の制作・設置などを始め、インドネシアなどでも発表を行っています。 西澤は2005 年から「LOOP」という彫刻を継続して制作してきました。「LOOP」はねじられた金属の帯板を溶接、接合して、最後に捻れた部分を繋いだ彫刻です。その溶接が解かれた時、ひとつの捩れた輪になります。この行為により西澤は表と裏、始まりと終わりのない連続した時間の集積を表現し、その境界を曖昧にし、空間の裏側を提示させました。2020年の個展で西澤はそれまで用いていた金属から一変し、アクリル板を使った無色の人体彫刻を造りました。その頃からコロナ禍が始まりかけており、自身の対象に対する距離感が少しずつ狂い始めたと西澤は言います 本展では、狂い始めた人やもの、風景に対する距離感。自分自身ではないような強制された距 離感。微妙に食い違ってしまった距離感に慣れないうちに、強制されたアクリル板越しに眺め る向こう側、自らが仕切りとなっての密接距離や辿り着けない薄さの向こう側みたいなものを 感じ、その感覚を無色のアクリル板で表現しました。西澤の感じた微妙に狂い始めた他者との距離感。対象に対する見えない断絶。決して密接しな い薄いベール越しの皮膚感覚。そのような今の気分を彫刻にした西澤の作品を体験してください。 本展のタイトルである「密接距離」というのはエドワードホールの『かくれた次元』によると、密接な距離では、他の人間の存在がはっきりととらえられ、感覚入力の電圧がきわめて高いため圧倒的なものとなることがある。視覚、嗅覚、相手の体温、息の音、におい、感じなどのすべてが結合して、他人の身体と密接に関係しているというはっきりとした信号となる。さらに密接距離-近親相。これは愛撫、慰め、保護の距離である。身体的接触もしくは身体的なインヴォルヴメントの可能性の大きいことが、双方の意識の最上層にある。遠距離受容器の使用はきわめて狭まり、嗅覚と放射熱の感覚だけとなる。そしてこの感覚は鋭敏になる。最大限の接触相にあっては、筋肉と皮膚がコミュニケーションをおこなう。腰、腿、頭が用いられることもあり、腕で抱きしめることもある。輪郭以外ははっきり見えない。幼児の場合のようには、密接距離においても近接視が可能な時には像はきわめて拡大され、網膜の全部ではないとしても、大部分に刺激を与える。この距離で見てとれる細部(ディテール)は異常である。この細部に眼筋が引きつけられ、寄り目になることが加わって、この視覚体験は他の距離での視覚体験と混同するようなことはない。密接距離では、発声がコミュニケーションに占める役割がきわめて小さい。コミュニケーションは他のチャンネルによっておこなわれるからである。ささやきは距離を広げる効果をもつ。音声化されたとしても、それは大抵無意識にそうなっただけのことである。 参考文献:エドワードホール(日高敏隆・佐藤信行訳)(1970)『かくれた次元』みすず書房
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