
Eunoiaでは9月26日(土)より、木村剛士による個展「固定する技術 - fixing technology」を開催いたします。 本展では、木村がこれまでの制作を通して考察してきた「彫刻」という概念を体現するインスタレーションとともに、新作の彫刻作品を発表します。 これまで木村は、芸術祭や野外展示など、作品が置かれる場所そのものが強い意味や固有の文脈を持つ環境で作品を発表する機会を多 く持ってきました。そうした場所において木村は、単にあらかじめ用意された空間に作品を持ち込むのではなく、そこに存在する地形、 歴史、あるいは人々の営みといったさまざまな要素を読み取り、それらに順応し、時に応答するように作品を展開してきました。 木村にとって彫刻とは、単にひとつの立体物を制作し、それを空間に設置することではありません。作品を構成する物質そのものだけ でなく、その周囲に存在する環境や状況、そこに蓄積された時間や忘れられた記憶、さらには一見すると作品とは無関係に思える出来 事や制度までもが取り込まれることで、はじめてひとつの彫刻として成立します。つまり木村の作品において「彫刻」とは、物体とし て完結したものではなく、物と場所、そしてそれらを取り巻くさまざまな関係によって立ち上がるものなのかもしれません。その作品 に対峙するとき、普段は目にしたり使用したりしているものでさえその背景にある事象や歴史をどれだけ認識できていないことに気付 かされるでしょう。 本展のタイトルである「固定する技術 - fixing technology」は、木村の彫刻におけるこうした思考を象徴する言葉です。「固定する」と いう行為は、一見すると物を動かない状態にする単純な操作のように思われます。しかし、実際には何らかの利便を優先して固定する という行為によって、固定されるものと、固定されなかったものとの間に境界が生まれます。あるものを特定の位置に定めることは、 同時にそこから外れるものを生み出すことでもあります。つまり、ひとつの秩序をつくる行為は、その秩序には収まりきらない余白や 歪み、こぼれ落ちる関係性を同時に生み出しているのです。 本展では、こうした木村の彫刻に対する考え方を最新作とともに提示します。そこでは、彫刻と展示空間との境界、作品とその周辺と の境界がつくり出され、私たちに秩序と境界が生み出す内側と外側、その境界の周縁に生じる揺らぎや歪みについて考えるきっかけを 与えます。固定されたものをただ見るのではなく、何が固定され、何がそこからこぼれ落ちているのか。その関係性に目を向けることで、 普段は意識することのない空間や物のあり方が、異なる輪郭をもって立ち現れてくるでしょう。 「固定する技術」とは、物を固定するための技術だけではなく、私たちが世界を認識する際に、ある物や出来事をひとつの意味として捉え、 そこに輪郭を与えてしまう行為そのものを指しているのかもしれません。 木村剛士の彫刻は、私たちの目の前に物を提示するだけではありません。むしろ、すでにそこにある物や場所を、別の角度から見直す ための状況をつくり出します。本展を通して、普段は見過ごしている物の存在、その背後にある時間や歴史、そして秩序と私たちとの 間にある関係について、改めて考える機会となれば幸いです。 作家ステートメント 「固定する技術」について 自然の中にある石には、本来「上下右左」といった方向はありません。 しかし、ひとたび人との関わりを持つと、「見栄え」や「座りの良さ」といったさまざまな要因によって、その石の上下左右、つまり「ポジション」が決められてしまいます。 地球上に無数に存在する石のなかで、誰かの手によって特定の向きが与えられ、固定された石は、その瞬間にとても特殊な「特異点」へと変わるのです。 私たちの身の回りには、こうした「固定する技術」があふれています。 たとえば、下げ振りが示す垂直線や、レーザー水平器が引く光のライン。 これらは空間に「ここ」という基準を設け、有無を言わさない強制力をもって位置を定めます。 あるいは、美術品や道具をクレート(木箱)に収め、緩衝材で隙間なく包み込む「梱包」という行為も同じです。 揺れ動く物質をあるべき場所に留め、ひとつの「秩序」を作り出そうとする強い力がそこには働いています。 空間に基準を設け、箱の中にものを固定すること。それは、空間に境界線を引いて、確固たる「内側(秩序)」を作り出す行為だと言えます。 境界線が引かれることで、ものの意味合いは変わってしまいます。 しかし、私が彫刻を通して見つめたいのは、そのようにして作られた「秩序」そのものではありません。 何かが強い力で固定され、境界が引かれたとき、その「外側」には一体どのようなものが派生しているのでしょうか。 固定化された状態の周縁に生まれる歪みや、こぼれ落ちてしまった関係性。 固定するという行為そのものが生み出す余白や気配をすくい上げ、空間に立ち上がる彫刻として形にしたいと考えています。
この展覧会の記事・批評をご存じでしたら、+ メディアを追加
9月26日から
保存すると、会期が始まる前にお知らせします